A:再生の大女 泥人
ピクシーが悪趣味なイタズラをすることは知っているな?
妖精郷に迷い込んだ者を、植物人形……通称「草人」に変異させてしまうことは特に有名だ。そんな草人を、あるピクシーが気まぐれで再生しようと試み、結果として泥まみれのバケモノが誕生してしまったらしい。
草人が「泥人」へと変異したからくりは謎だが、元になった人物は、ふくよかなミステルの大女だったとか。緋色のピクシーから話を聞いたときには、我が耳を疑ったぜ。
~ナッツ・クランの手配書より
https://gyazo.com/cea437ab7e183b47d481e0031585d793
ショートショートエオルゼア冒険譚
ピクシーは遊びたい盛りの幼くして亡くなった子供だったり、死産してしまい世界に出て遊ぶことが出来なかった子供の魂から生まれるという説がある。そのせいでピクシーとなってからは子供じみた悪趣味なイタズラやちょっと笑えない程残酷なイタズラをしてしまうのだという。特に有名なのは、妖精郷に迷い込んだ人を通商「草人」という植物人形に変異させてしまうというイタズラだ。その日も妖精郷に迷い込んだ太っちょのミコッテの女性を草人に変異させたのだのだが、実はこのミコッテの女性はただ迷い込んだわけではない。このミコッテは数年前に幼い息子を亡くしていた。冒頭に語ったピクシーの誕生についての説を聞きつけ、もしかしたら息子がピクシーに生まれ変わっているのではないかと考えてイル・メグへと足を踏み入れたらしい。だが、ピクシーにそんな事情が分かるはずないし、分かった所でそんな親心が理解できるはずもないのだが。
太っちょのミコッテを草人に変異させたピクシーは大きな葉の上でうつ伏せに寝転がり両肘に顎を乗せ、足をバタ足するようにパタパタと交互に動かしながら視界一杯に広がる花畑を頬を膨らませながら眺めていた。明らかに退屈していた。ふと視線を逸らすと傍らにはさっき変異させた大きな草人がじっと立っている。人を草人にするのは楽しい。変異していく瞬間のあの驚きと恐怖の入り混じった表情は笑える。だが、いざ草人になってしまうと動かないし、話もしないからつまらない。
ピクシーはハッとした顔をして飛び起きた。
「そうだわっ、草人を元に戻せばお話もできるし楽しくなるかも。それには…アレと、アレ。それにアレも必要ね」
彼女はそう独り言を言うと小さな羽をパタパタ羽ばたかせていそいそと準備に取り掛かった。
「まぁ、発想は悪くなかったけど、彼女は失敗しちゃったみたいね。翌日彼女の亡骸が見つかったわ」
緋色のピクシーそういってやれやれというように肩を竦めて見せた。同族が被害に遭っているのにあっけらかんとした態度にあたしも相方も口を半開きにして呆然とした。ピクシーが妖精であり、人間とは違う価値観を持っていることや命というものにそれ程執着がないことは知識としては知っているがこうも軽い反応になるものなのだろうか。あたし達のその顔を見て何かを察したクランのメンバーがフォローを入れる。
「ピクシーは自分より楽しそうなことを思い付いた同族が気に入らないし、嫉妬するんだよ」
あたし達は分かったような、分からないような複雑な思いでもう一度緋色のピクシーを見た。
「別に嫉妬なんてしてないわよ。ちょっと悔しいだけっ」
緋色のピクシーはそういってプイッと背中を向けた。
「ねぇ、あなたなら上手くやれる?」
あたしは背中を向けたピクシーに問いかけた。ピクシーはぴくっと反応してくるっと嬉しそうにこちらに向き直った。
「もちろんだわっ」
緋色のピクシーとあたし達は草人にされてしまったミコッテの女性を元の姿に戻すためリダラーン西部の花畑へと向かった。
「ねぇ…、なにあれ?」
相方は緋色のピクシーに尋ねた。そこにいたのは草人ではなく高さ3~4mのヘドロの山だった。
「きっと何か使った素材に間違いがあったのねぇ」
緋色のピクシーは暢気に言った。これが元に戻るのだろうか…
あたしは気になって聞いてみた。
「草人を元に戻したことはあるのよね?」
「ないわっ」
緋色のピクシーは元気よく答えた。
「ええ…」
あたし達は俄かに不安げな顔になる。
「大丈夫よ!見てなさい!」
そう言うと緋色のピクシーはフワッと泥の山に近づくと、ごにょごにょと詠唱するとエイッと魔法を掛けた。
「‥…。」
手を前に突き出したまま緋色のピクシーは固まっていた。…何も起きない。
ふぅ、と息を吐きながら汗をぬぐうようなそぶりをしながら緋色のピクシーは振り返った。
「なかなか難しいみたいね」
「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そのピクシーの後で泥の山が叫び声をあげながら先の丸まった両手を挙げて空へと伸びあがった。
どうやら元に戻すどころかかえって怒らせてしまったようだ。